インタビュー 第1回 L雲田光信

「美味になるタイミングは、豆が教えてくれる」
コーヒー豆と対話する職人技~焙煎
美松珈琲貿易株式会社 代表取締役 雲田光信

大作曲家バッハは有名なコーヒー好きで、「コーヒー・カンタータ」という曲まで残しています。偉人にも市井の人々にも、至福の時間を与えてくれるコーヒー。あの風味はどうやって生まれるのでしょうか。福岡市で半世紀以上にわたって自家焙煎の技を極めてきた現「美松珈琲貿易株式会社」の代表取締役、L雲田光信さんに、極意をお伺いしました。

コーヒーノキから採取されるコーヒー豆は、ブラジルなど、「コーヒーベルト」と呼ばれるエリアの約60カ国で生産されています。雲田さんは「コーヒー豆と言うけれど、私たちが扱っているのは、コーヒーの種子の部分なんです」。

コーヒー豆は外側から果皮→果肉→ペクチン層→パーチメント→シルバースキンと重層的に構成され、最後に種子に到達。これが、一般的に言われる「コーヒー豆」です。

コーヒー豆が生産地から消費国に輸出される際に使われるのは、昔ながらの麻袋(またい)という布袋。雲田さんは「この布袋が大事なんです。赤道直下をまたいでくるので、温度差がすごい。布じゃないとだめ」と言います。ちなみに、日本は、EU、アメリカ合衆国に次いで、世界3位のコーヒー豆輸入国だとか。

コーヒーの価値を決める工程の一つが「焙煎」という作業。今日は、この焙煎作業を見学しました。焙煎機と呼ばれる専用機を使います。焙煎前の豆には、風味はありません。焙煎によって成分に化学変化が起こり、独特の風味、香り、多彩な色が生み出されるのです。豆の温度管理、時間の判断が勝負です。焙煎によって豆のpHが低下、酸性が強くなります。また、加熱でタンパク質が分解され、苦みの素になる有機化合物群も増えます。ベストの風味を生むためには、焙煎作業で絶妙のタイミングが求められるのです。

雲田さんが焙煎を開始しました。それにしても、どんな豆が「良い豆」なのでしょうか。どうやって見分け、入手するのでしょうか。

もちろん雲田さん自身も長年のキャリアで培った知識と判断力をお持ちですが、大きな支えになってくれているのが息子さんだそうです。「息子はSCAA(米国スペシャルティコーヒー協会)公認のカッピングジャッジという資格を持っているんです」。いわば、「ワインソムリエ」のような専門家。コーヒーに関する深く広い知識、コーヒー豆の品質を正確にジャッジする能力など21項目の試験をパスすることが求められる狭き門。だからこそ、美松珈琲貿易は、常にいい豆を手に入れ、使えるのだそうです。

いい豆とは?
「まず、カビ臭があるのは絶対だめ。どんなに焙煎しても消えません。そういうのは使えない」「また、雑味があるとだめ。クリーンなコーヒーじゃないとね」。

焙煎では、正確な温度管理、時間の判断が求められます。「酸っぱいやつ。苦いやつ。豆にもいろいろある。コンピューターじゃないんで、時間や温度の判断は感覚が大事」。つまり、そこは職人さんの世界なんですね。

「焙煎を始めて、ある時間になると、パチパチと特有の音がする。私たちは『爆(は)ぜ音』と呼んでいます。つまり、豆の方から『おいしい状態になりましたよ』と告げて来る。それをしっかり聞き取るのです」。そして、躊躇せず、釜から出す。その神業的なタイミングは「勘ですね」。

美松珈琲貿易株式会社は、1946年に福岡市博多区祇園町に開業した「喫茶美松」がルーツ。1950年にコーヒーの自家焙煎を開始。「うちは、スペシャルティコーヒーの魁(さきがけ)ですから」と語る雲田さん。2010年には東区香椎駅前にスペシャルティコーヒーに特化した「ミマツ・スペシャルティコーヒーロースター」を開業。スペシャルティコーヒー豆の卸・販売を行っている。2016年に東区香椎駅前に本社を移転。卓越した技能を持つコーヒー鑑定士が、世界各地から取り寄せたコーヒー豆を絶妙の職人技で焙煎している。「必ず最高の一杯をお約束します」と雲田さん。その笑顔には、プロとしての自信と自負があふれています。

世界の人々が愛するコーヒー。音楽家ベートーヴェンは、1杯のコーヒーには必ず60粒の豆を使い「コーヒーはインスピレーションを与える」という言葉を残しています。フランスの小説家バルザックも「コーヒーは、知的能力の活動を延ばす」と言って、1日に何十杯も飲んだそうですし、フランスの英雄ナポレオンは「兵士にコーヒーを与えよ。体を暖め、勇気を引き出すから」と軍隊御用達の飲料として初めてコーヒーを採用したと伝えられます。

もし世の中にコーヒーがなかったら、世界の文化芸術や歴史は違うものだったかもしれません。あなたの今日の1杯のコーヒーは、あなたの人生を豊かに彩るでしょう。雲田さん、深く楽しいお話、ありがとうございました。

インタビュアー:L西島一之
記事監修:OB嘉悦洋
映像撮影・編集:L小宮のぞみ